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大阪地方裁判所 昭和29年(行)77号 判決

大阪市西区京町堀通二丁目一番地

原告

(通称)

天野幸朗

右訴訟代理人弁護士

古川毅

大阪市西区江戸堀下通五丁目

被告

西税務署長

瀬尾信多郎

右指定代理人大蔵事務官

仲村清一

藤井三男

吉田周一

斎藤幸一

右当事者間の所得税額決定処分取消請求事件につき、当裁判所は、昭和三九年七月六日終結した口頭弁論にもとづき、次のとおり判決する。

主文

被告が昭和二八年八月二六日原告に通知した原告の昭和二七年分所得金額を四五万二、三〇〇円とする再調査決定のうち三五万六、二一六円をこえる部分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用を五分し、その三を原告の負担とし、その二を被告の負担とする。

事実

第一、双方の申立。

一  原告。

被告が昭和二八年八月二六日原告に通知した原告の昭和二七年分所得金額を四五万二、三〇〇円とする再調査決定のうち、所得金額二〇万〇、八八八円をこえる部分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二、双方の主張

A  原告の主張

一  原告は、製めん及びパン類小売等を業とするものであるが、昭和二七年分所得税の申告につき、所得金額を二〇万〇、八八八円、税額を一万八、五〇〇円と申告したところ被告は所得金額を五四万六、〇〇〇円、税額を一三万九、四〇〇円と更正決定をし、原告が再調査の請求をしたところ、被告は、所得金額を四五万二、三〇〇円、税額を一〇万一、〇〇〇円とする再調査決定をした。そこで原告は更に審査の請求をしたが、棄却された。右各請求及び決定の日時は被告主張のとおりである。

二  原告は、昭和二七年の営業につき売上、仕入、経費等に関する帖簿類ははじめから備えつけていなかつたが、被告の調査に際してすべての収支計算に関する資料を提供しており、調査を拒んだことはない。従つて推計課税をすべきではない。また、被告の再調査決定は、十分な調査をせず原告の営業の実態を無視し一方的な統計等から割り出した課税であつて、仮に推計すべき場合であるとしても、その推計方法は合理的でない。

三  原告の昭和二七年中の営業収支計算は次のとおりであつて、その所得は二〇万〇、八八八円である。従つて、被告の再調査決定中右金額をこえる部分は、原告の所得の認定を誤り、過大に評価した違法があるから、その取消しを求めるものである。

収入の部 売上高 一、七八九、四四〇円

支出の部 主原料仕入費 一、三〇一、六七〇円

副材料費 二七、七一六円

燃料費 七二、九〇〇円

消耗品費 二〇、二〇〇円

公租公課 一五、八一〇円

家賃 七二、〇〇〇円

動力費 一三、二九一円

修繕費 二四、八九五円

通信費 一二、〇四〇円

水道料 八、二八五円

電燈料 五、九七六円

文具雑費 一三、七七四円

計 一、五八八、五五七円

差引所得金額 二〇〇、八八三円

四  被告の主張する収支計算の各項目のうち、原告が争うのは、生うどん等の売上高、主原料である小麦粉、そば粉(以下両者を含めて単に小麦粉という。)の仕入費、副材料費。燃料費、消耗品費、公租公課、家賃及び建物償却費の各項目である。その余の項目に関する被告の主張は全部認める。

右の争う分について、原告は次のとおり主張する。

(一) 生うどん等の売上高

1 使用した小麦粉の数量(袋数)。

イ 昭和二七年九月以降は、小麦粉につき統制が解かれ市販品を購入できるようになつたが、原告は同年中すべて大阪製めん協同組合(以下単に組合という)から原料小麦粉を仕入れていた。また、原告は組合との取引をすべて「天野幸朗」名義でしており、被告の主張するように花村名義で仕入れたことはないしかし、仮にこれが事実であるとしても、被告は、原告の係争年度昭和二七年の所得金額決定当時から五年を経過した後に新たに調査して、原告が花村名義で組合から仕入れたと主張しているのであるが、国税債権が五年の経過により時効消滅する旨規定した会計法三〇条の立法趣旨に徴するときは、被告が五年経過後に所得金額決定当時の新たな収益発生の原因たる被告の行為を発見しても、これについての証拠方法を提出することは許されないといわねばならない。

原告の各月毎の仕入量は、別級二の「原告の主張」欄記載のとおりであり、年間合計一、二八二袋である。これによると、一月から八月までの仕入量一、〇七七袋と、九月から一二月までの仕入量二〇五袋とが均衡がとれていないが、これは、統制下組合から購入する小麦粉は良質であり、原告の資金状態好転の折でもあつたので、統制解除前に余分に買い込んだことと組合から押売りされたことにより、一月から八月までの仕入量がその期間の使用量を上廻り、この余分に買い溜めた原料を九月以降に繰越し使用したためである。

ロ 被告は、一月から八月までの仕入小麦粉の量とその期間の使用電力量との割合をもつて、九月以降の使用電力量からその期間の使用小麦粉の量を推計しその仕入量を算出しているが、年間の一部期間の仕入量、使用量から他の期間のそれを推計するのは非合理的であり、殊に本件の場合は、前述のように、一月から八月までの仕入量はその期間の使用量より多いのであるから、この間の仕入量が使用量に等しいことを前提とする被告の推計方法は誤りである。

ハ 原告が昭和二七年中に使用した電力量についての被告の主張は認める。しかし、使用電力が全部小麦粉の消費に充てられたとの前提に立ち、ロスを見ない被告の推計方法は合理的でない。

2 小麦粉一袋から製造されるうどん等の玉数。

うどん、そばの一玉当り小麦粉使用量が一三〇グラムであるとの被告の主張は認める。そして小麦粉一袋から製造するうどん等は、一七〇食(一食は二玉)が標準である。

被告は、原告の製造するうどん玉等は量目不足であつたから、小麦粉一袋から一七九食製造していたものと認めるべきだと主張するが、これを争う。原告は右標準どおり一袋から一七〇食しか作つていない。

当時は随時抜うち検査が行なわれていたから、製造規格に合わないものを製造できるはずがなく、被告が僅が一、二ケ所の店頭検査をしただけで量目不足を主張するのは根拠がない。

3 卸、小売の別及び単価。

原告がうどん玉等の卸売り及び小売りをしていたことは認めるが、その割合が被告主張のとおりであることは争う。また、単価は、卸、小売ともに一月から八月までは一食八円、九月以降は同九円であつた。

4 生うどん等の返品。

原告が販売したうどん等のうち、腐敗により返品を受けた分がある。従つて、総製造量からその分を控除した分が年間の売上額とならなければならない。被告がこの点を考慮に入れていないのは誤りである。返品の正確な数量は当時の資料がないので掴めないが、次の方法により算定するのが相当である。すなわち、返品の数量は一月から三月までは売上の一%、四月から六月までは同一・五%、七月から九月までは同三%、一〇月から一二月までは同一%とみるべきである。そうすると、年間売上高は前記のとおり一七八万九、四四〇円であるから月間平均売上高は一四万九、一二〇円となるのでこれを一四万九、〇〇〇円として、前記各比率により各月の返還製品の金額を算出し、これを合計すると、年間返品の金額は二万九、〇五五円となる。

(二) 小麦粉の仕入費用。

小麦粉の仕入れに要した各月ごとの費用は、別紙二の「原告の主張」欄の仕入費用欄に記載したとおりで、その総計は一三〇万一、六七〇円である。

(三) 副材料費、燃料費、消耗品質。

右各費目については、小麦粉一袋につき要する費用の各金額が被告の主張のとおりであることは認める。

(四) 家賃。

原告がその営業所に使用している被告主張の建物は賃借に係るものであり、原告はその賃料として毎月六、〇〇〇円、年間計七万二、〇〇〇円を家主に支払つている。被告は、原告が右建物の延坪数一一・三坪のうち九・三坪しか営業用に使用していないと主張するが争う。原告は、右一一・三坪の全部を営業用に使用しているから、右家賃は全額経費に計上さるべきである。

(五) 建物減価償却費又び公租公課。

被告は、前記建物を原告が所有していると主張するが、そうではない。前記のように他から賃借しているものである。従つて、被告主張のような減価償却費を経費として計上すべきではない。また右建物の固定資産税も原告の経費ではない。

五  以上述べた原告の主張をまとめると、原告の昭和二七年中の営業収支の明細は、別紙一の「原告の主張」欄記載のとおりとなる。

B  被告の主張

一  原告の主張一の事実は認める。原告の申告、被告の処分等の日時は次のとおりである。

確定申告 昭和二八年三月一六日

更正決定 同年五月二日

再調査請求 同年五月二六日

再調査決定の通知 同年八月二六日

審査決定の通知 昭和二九年七月五日

二  原告は、昭和二七年中商業帳簿はもとより、伝票その他原始記録をも備えつけていなかつた。被告が昭和二七年一〇月六日に原告の所得調査をした際、原告は、売上仕入等に関する記録をしておらず、仕入の原始記録や証拠書類も保存していないと申立てていたのであるから、その後若干提出したものの、調査当時資料提出を拒んだものと認めるべきである。

よつて被告は、所得税法第四六条の二第三項(昭和二九年法律第五二号による改正前の所得税法)にもとづき、推計によつて原告の所得額を算定して、更正決定及び再調査決定をした。ところで、推計の基礎資料とした原告の原料小麦粉の仕入量について、被告ははじめ、原告の主張する昭和二七年一月から八月までの仕入量を基礎として九月から一二月までの仕入量をまず推計し、年間仕入量を算出したのであるが、その後の調査にもとづく証拠資料により、原告の右一年間に仕入れた原料小麦粉の実数量を把握することができたので、被告は、第一次にこの仕入実数量を基礎とする所得額の推計をし、第二次に(仮定的に)推定仕入量を基礎とする所得額の推計をする。

右第一次及び第二次の認定方法による(昭和二七年一月一日から一二月三一日までの事業期間)の原告の営業の収支計算は別紙一の収支計算表の「被告の主張」欄記載のとおりであり、そのうち当事者間に争いのあるものについての被告の計算の根拠及び方法は、以下に述べるとおりである。

三  売上高

(一) 生うどん等の売上高。

原告が使用した小麦粉の袋数に、一袋から製造されるうどんの玉数(そばの場合も玉数は同じ。)を乗じた数を総売上玉数とし、一玉の単価に右玉数を乗じて算定する方法によるのが相当である。

1 使用した小麦粉の数量。

使用した小麦粉の袋の総数を直接認めることのできる資料はない。しかし、原告のような営業においては、手持原料の翌年度繰越しはないとみてよいから、仕入小麦粉の量と使用小麦粉の量とは同じと扱つてよい。そこで、仕入小麦粉の数量を算定すると次のとおりである。

イ 昭和二七年一月から六月までの期間は、まだ小麦粉の販売につき食糧管理法による統制が加えられていたので、その間製めん業者の小麦粉の正規の仕入先は組合であつた。ところが、同月中それまでの直接統制が解除されて間接統制の制度になつたので、同年七月以後は組合以外からも自由に仕入れることができるようになつた。もつとも統制下にあつても米、小麦粉等がなかば公然と、いわゆる闇で取引され、製めん業者がそれらの小麦粉を仕入れていたことは公知の事実ということができる。従つて原告も組合から仕入れる以外に闇の小麦粉を仕入れて使用していたものと考えられる。しかし、本件においてはそれらのものを除外し、同年中を通じて原告が組合から仕入れた小麦粉だけを取り上げて計算の基礎とすることにする。

ところで原告は、組合から小麦粉を仕入れるに当つて、天野名義を用いたほか花村という名をも用いていた。この両名義で原告が組合から仕入れた小麦粉の量は別紙二の「被告の主張」欄記載のとおりである。

これによると、原告の仕入量は、使用電力量と対比した場合、一月から八月までと九月から一二月までとで、一見均衡がとれていないようにみえる。しかし、これは原告が統制下においてもいわゆる闇の小麦粉を組合以外から仕入れて使用していたのであるが、その数量の認定が困離なため、被告において一月から六月までの統制外の小麦粉の仕入量を原告の仕入量の算定につきあえて計上しなかつた結果によるものである。

ロ 仮に、原告が組合から花村名義で仕入れたことが認められないとすれば、次の方法による推計が相当である。

原告の主張する昭和二七年中に仕入れた小麦粉の月別数量は、別紙二の「原告の主張」欄記載のとおりであるが、これによると、一月から八月までの仕入総数の月割り平均数と、九月から一二月までのそれとの間に大きい開きがあり、後者が著るしく少ない。しかし、原告のような毎月の仕入原料の翌月繰越しの少ない業態においては、仕入原料と使用原料の量に等しいといつてよく、また原告が昭和二七年中に製めんに使用した電力の量は、被告が訴外関西電力株式会社を調査して得た資料によると別紙二の一覧表のとおりであつて、各月ごとにあまり著るしい差が認められないことに徴しても、原告の主張する仕入量は極めて不自然である。原告は、統制解除後は組合からの仕入れのほかに、他の者からも小麦粉を仕入れていたものとみなければならない。そして、その組合以外から仕入れた量を直接認定すべき資料がないのであるから、推計の方法として、原告の主張する一月から八月までの小麦粉の仕入数量一、〇七七袋とその期間の使用電力量八三四キロワツトとを基礎とすることとし、一、〇七七を八三四で割ると一、二九となる。すなわち、右期間においては使用電力一キロワツト当り一、二九袋の小麦粉が製品化されたと推定できるわけである。ところが、原告の主張する九月から一二月までの仕入数量二〇五袋とその期間の使用電力量四二六キロワツトから一キロワツト当りの消費小麦粉の量を算出すると、〇、四八袋にしかならない。従つて、これとさきの一、二九袋との差額すなわち電力一キロワツト当り〇、八一袋の小麦粉が、右期間内に原告の主張する仕入数量のほかに消費され製品化されていると推定することができる。このかくれた量を算出すると三四三袋となる。よつて被告は、原告主張の昭和二七年中の仕入数量合計一、二八二袋に右三四三袋を加算した一、六二五袋が、原告が同年中に仕入れた実際の数量であると推計したわけである。

2 小麦粉一袋から製造されるうどん等の数量。

うどん一玉当り小麦粉使用量は一三〇グラムでありこれはそば、中華そば、畑うどん等で異ならない。そして、製造規格に合わせた場合の製造量は、小麦粉一袋当り一六九食(一食は二玉)であり、その場合の生うどん一玉の量目は平均四八匁である。ところが、被告が原告の製造したうどん玉を抽出検査した結果によると、一玉平均四四・三七五匁であつたから、原告は小麦粉一袋から一八・二九食を製造していたことになるが、水切れによる目減りを考慮すると、原告は、小麦粉一袋から一七九食を製造していたと認めるのが相当である。

3 卸小売の別及びその単価。

原告の業態は、年間を通じて卸売八〇%、小売二〇%であり、販売単価は、一食につき一月から八月までは卸値八円、小売値九円、九月から一二月までは卸値九円、小売値一〇円であつた。

4 以上の資料による原告のうどん等の売上金額。

イ 原告が、前記1イで述べたとおり小麦粉を仕入れていたとすると、昭和二七年一月から八月までの仕入袋数一、〇八七袋については、その八割である八七〇袋が卸売りうどん玉に使われた分というべく、これに一袋当り食数一七九と単価八円を乗ずると、一二四万五、八四〇円となり、これが右期間の卸売上金額であり、また仕入袋数一、〇八七袋の二割である二一七袋が小売りうどん玉に使われた分で、これに一袋当り食数一七九と単価九円を乗ずると、三四万九、五八七円となり、これが右期間の小売りによる売上金額である。次に同年九月から一二月までの仕入袋数一、〇九〇袋につき右と同様の方法で計算すると、右期間の卸売上金額は一四〇万四、七九二円、小売売上金額は三九万〇、二二〇円となる。そこで、右売上金額を合計すると、年間売上額は、三三九万〇、四三九円となる。

ロ 仮に、1ロで述べた推計を基礎とすれば、一月から八月までの仕入量が一、〇七七袋、九月から一二月までの仕入量が五四八袋であるから、これにより右と同様の計算をすると、一月から八月までの卸売上額一二三万四、三八四円、小売売上額三四万六、三七五円、九月から一二月までの卸売上額七〇万五、〇七八円、小売売上額一九万六、九〇〇円となり、年間総売上額は二四八万二、七三七円となる(被告第一準備書面の次表(一)の総計金額二四二万五〇九三円は卸・小売価額を区別していない。)。

5 腐敗返品の不存在。

原告は、売上高から腐敗による返品分の額を控除すべきであると主張するが、当時の食糧不足の事情からみても、また製めん業のような業種では、過去の経験から日々の販売予定数量に対応する製造計画を立てて営業しうることからみても年間を通じ継続して原告主張のような返品が生ずるとは考えられない。たまたま返品があつたとしても自家消費等に消費する程度のものであつたと認められる(自家消費の場合は売上に計上すべきである。)から、所得計算にあたり考慮すべきではない。

(二) パン・生菓子・牛乳等の売上高。

原告は、パン・生菓子・牛乳等の小売も兼業していた。その商品別仕入れ・売上げの詳細は明らかでないが、売上総額は、原告が被告あて提出した損益計算書のとおり二二万七、五六九円と認定した。

(三) 総売上高。

よつて、原告の昭和二七年中の総売上高は、(一)4イの額と(二)の額とを合わせた三六一万八、〇〇八円である。仮に推計の方法によつても(一)4ロの額と(二)の額とを合わせた二七一万〇、三〇六円である。

四  経費

原告の営業経費は、別紙一の収支計算表4ないし20の「被告の主張」欄記載のとおりである。これについて、次に説明する。

(一) 小麦粉の仕入費用。

イ 被告の調査の結果、原告が組合から天野及び花村の名義で仕入れた小麦粉二、一七七袋の仕入れに要した各月ごとの費用は、別紙二の「被告の主張」欄の仕入費用欄に記載したとおりで、その総計は、二、二〇二、一九五円(内そば粉一二袋二〇、六五〇円)である。(ただし、一〇月以降の三ケ月について、天野名義で仕入れた分の仕入費用が原告の主張のとおりであることは認める)。

ロ 被告主張の三、(一)ロの認定方法による仕入数量について算定する場合は、被告の調査時に原告が申立てた仕入単価である昭和二七年一月から八月までまで一袋一、〇〇九円、九月から一二月まで一袋一、〇〇五円によりこれに一月から八月までの仕入袋数一、〇七七及び九月から一二月までの仕入袋数五四八をそれぞれ乗じた結果、仕入金額合計は一六三万八、〇五四円となる。

(二) 建物減価償却費

原告は、当時大阪市西区京町堀通二丁目一番地上木造スレート葺平家建店舗兼居宅一棟建坪一一坪三合を所有し、そのうち九坪三合を営業に使用していた。

原告は、右建物を訴外小中政雄の所有であると主張し被告も再調査決定当時は原告の右主張をそのまま採用していたのであるが、その後の調査により、小中政雄とは原告の戸籍上の本名であつて、「天野幸朗」というのは原告の通称名であることが判明した。

ところで、右建物の減価償却費の計算の基礎とすべき実際の取得価格が不明であるから、このような場合は、右建物の昭和二七年度固定資産税課税標準価格二四万四、〇〇〇円を取得価格として計算するのが相当である。すると、右取得価格とした二四万四、〇〇〇円から、その一割に当る残存価格二万四、四〇〇円を控除した残額二一万九、六〇〇円をもつて償却計算の基礎とし、これに償却率〇・〇五(耐用年数二〇年)を乗じて得た一万〇、九八〇円に、さらに総坪数一一・三坪に対する営業使用面積九・三坪の割合、すなわち営業使用割合を乗じて得た九、〇三七円をもつて、原告の営業経費とするのが相当である。

(三) 家賃。

前記の建物は、原告の所有であるから、原告が右建物の賃料を支払つているとの主張は首肯できない。しかし仮に右建物が原告の所有ではなく、原告が他から賃借してその主張の年間七万二、〇〇〇円の賃料を支払つているとしても、所得税法第一〇条二項により、家事に関連する経費と認められる部分は除外すべきであるから、被告は九、〇〇〇円を家事関連経費として否認し、六万三、〇〇〇円を必要経費と認定した。さきに述べたとおり、建物の総坪数一一・三坪に対する営業使用坪数は九・三坪であるから、この割合によつて相当と認められる必要経費の額を計算すると、五万九、二五六円となるのであり、被告の認定した六万三、〇〇〇円はむしろ過大であつて原告に有利な認定である。

(四) 公租公課。

原告に対する昭和二七年度の公租公課は、原告が申告した一万五、八一〇円のほかに、前記原告所得建物についての同年度固定資産税三、九〇〇円である。そのうち事業使用部分に応じた割合による額三、二一〇円を営業経費として認めるのが相当である。従つて、経費とすべき公租公課の合計は一万九、〇二〇円となる。

(五) 副材料費、燃料費、消耗品費。

右各費目については、小麦粉一袋当りの各費用について、原告の申告を相当と認めてそのまま採用した。すなわち、副材料費二一円六一銭、燃料費五六円八六銭、消耗品費一五円七六銭である。これに、被告の主張する原告の仕入小麦粉の量二、一七七袋、仮にこれが認められないときは一、六二五袋をそれぞれ乗じて計算すると、右各経費の額は、別紙一の収支計算表の各該当欄に記載のとおりとなる。

(六) 以上述べた経費以外の経費のうち、什器償却費及び包装費は原告の申告では経費に計上されていなかつたが、被告においてこれを調査のうえ経費と認定したものであり、パン等うどん、そば以外の員品の仕入高は、原告が被告に提出した審査請求書添付の損益計算書記載の額をそのまま認めたものであり、その余の経費は、原告の申告時の主張額をいずれも相当と認めて採用したものでるあ。

五  以上を総合すると、原告の昭和二七年の所得は、総収入三六一万八、〇〇八円から総支出二七二万八、〇〇四円を差引き八九万〇、〇〇四円となる。仮に被告の三、(一)1イの主張を前提とする計算が認められず、三、(一)1ロの主張によるときは、原告の所得は、総収入二七一万〇、三〇六円から総支出二一一万一、八四八円を差引き、五九万八、四五八円となる。いずれにしても、被告の再調査決定で認定した所得額四五万二、三〇〇円をこえており、右決定が原告の所得額を実際よりも多く認定した違法があるとして、その取消を求める本訴請求は理由がない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証の一ないし六を提出し、証人御前啓三、同的場稔、同田井中玉治郎(第二回)、同福井三郎の各証言及び原告本人尋問の結果(第一、二回)を援用する。

2  乙第三号証及び第四号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証の一ないし三、第二ないし第八号証、第九、第一〇号証の各一、二、第一一号証の一ないし五、第一二ないし第一四号証を提出し、証人平野新一郎、同田井中玉治郎(第一回)の各証言を援用する。

2  甲号各証の成立は認める。

理由

一、原告の昭和二七年分所得税に関する所得金額及び税額について、確定申告から審査請求棄却の決定に至るまでの手続の経緯が次のとおりであることは当事者間に争いがない。

(手続の種類) (年 月 日) (所得金額) (税額)

1  確定申告 昭和二八年三月一六日 二〇〇、八八八円 一八、五〇〇円

2  更正決定 同年五月 二日 五四六、〇〇〇円 一三九、四〇〇円

3  再調査請求 同年五月二六日

4  再調査決定 四五二、三〇〇円 一〇一、〇〇〇円

5  右決定の原告への通知 同年八月二六日

6  審査請求

7  右請求棄却の決定

8  右決定の原告への通知 昭和二九年七月 五日

二、原告は、原告の昭和二七年中の所得金額は確定申告のとおり二〇万〇八八八円であつて、被告のした再調査決定により認定された所得額は過大であると争うのであるが、当事者双方が所得金額算出の根拠とする収入及び支出の各科目は別紙一の収支計算表の科目欄に記載のとおりで、そのうち金額において当事者間に争いがあるのは、生うどん等の売上高、小麦粉の仕入費、副材料費、燃料費、消耗品費、公租公課、家賃、建物償却費の八科目である。

よつて、右各科目について順次判断する。

三、生うどん等の売上高

(一)  推計の適法性について

成立に争いのない乙第一号証の一ないし三、第五号証、証人平野新一郎の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によると、原告は、昭和二七年中の営業について収支を明らかにしうる帳簿類を備えつけておらず、被告の調査に対しても所得額の実数を把握するに足りる帳簿等の資料を提示することができなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。従つて、被告が原告の同年中の所得金額を認定するにつき推計の方法によつたことは正当である。

そして、生うどん等の売上高を推計するのに、原告が使用したと認められる原料小麦粉の袋数に、一袋から製造されるうどんの玉数(そばの場合もそば粉一袋から製造される玉数がうどんの場合と同じであることは、当事者間に争いがない。)を乗じた数を総売上玉数とし、一玉の単価に右玉数を乗じて算出することは、妥当である。

(二)  使用した小麦粉(そば粉を含む。以下同じ。)の数量。成立に争いのない乙第二号証及び原告本人尋問の結果(第一回)によると、手持原料小麦粉について、昭和二六年から昭和二七年へのくり越し及び同年から昭和二八年へのくり越しはなかつたことが認められる。そうすると、原告が昭和二七年中に仕入れた小麦粉の量は、原告が同年中うどん等製造のために使用した小麦粉の量に等しいということができる。よつて、原告が同年中に仕入れた小麦粉の量について判断する。

1  被告はまず、原告が組合から仕入れた小麦粉には、天野の名で仕入れたもののほかに花村という名で仕入れたものがあると主張し、原告の年間仕入総量を別紙二のとおり主張する。そして、成立に争いのない乙第七号証及び証人田井中玉治郎の証言(第一回)は、一応被告の右主張を裏づけているようにみえる。しかしながら花村名義による一ケ月の仕入量が天野名義による一ケ月の仕入量よりはるかに多く、しかも花村名義による仕入れが、一〇月以降の三ケ月に限つて、忽然とあらわれていること、乙第七号証の帳簿には「花村殿」の記載の下に(天野)の記載があるが、前記田井中玉治郎の証言によつて認められるように、この帳簿が税金対策のための偽名によるかくし帳簿であるならば、わざわざ当初から原告の名をカッコした(天野)の記載をしてあつたものとみることは不合理であるから(天野)なる文字は後に記入されたものとの疑いを拭い去れないが、それならば、この記載がいつ誰によつて、どのようないきさつでなされたかについて、何ら納得できる立証がなされていないこと、田井中玉治郎に対する審尋の結果及び証人田井中玉治郎の証言(第二回)によると、組合は、乙第七号証を含む組合の帳簿を、今後裁判所から提出を求められることがあることがあるかもしれないから大切に保管してくれとの注意つきで大阪国税局から返還を受けながら、当裁判所の組合理事長田井中玉治郎を審尋する旨の決定が昭和三六年二月二日になされた直後の同月四日か五日頃に(同月二日右決定がなされ翌三日田井中玉治郎に対する審尋期日通知が発せられていることは記録上明らかである。)右帳簿を焼却してしまつたことが認められることに照らすと、前記乙第七号証及び証人田井中玉治郎の証言(第一回)をもつては被告の前記主張を認めることができず、他にこれを認めるに足る証拠はない。すると花村名義による仕入れが原告の仕入れであることを前提とする第一次の推計によることはできない。したがつて、この推計によることを前提とする本件再調査決定が適法である旨の被告の主張は採用できない。

2  被告が仮定的に主張する仕入量の推計の相当性について。

原告の主張する昭和二七年中の原料小麦粉の月別仕入量は、別紙二の「原告の主張」欄記載のとおりである。しかしながら、原告が各月毎に使用した電力の量が別紙二に記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、これによれば、夏場は若干少ないながら、毎月ほぼ平均した使用量となつていることが認められ、また原告本人尋問の結果(第一回)によつても、原料消費量、従つて製品生産量は、夏場は若干少なくなるが各月毎に大差はなかつたことが認められる。このこととさきの原告主張の各月仕入量とを対比すると、一月から八月までの仕入量(合計一、〇七七袋)に比し、九月から一二月までの仕入量(合計二〇五袋)が極端に少なくなつていて、つじつまが合わない。

このことについて原告は、八月以前に消費量を上廻る余分の原料小麦粉を買い溜めし、これを九月以降の消費にまわしたから、九月以降の仕入れは少なくて足りたのであると主張する。しかしながら、成立に争いのない乙第六号証によると、原告は、九月中に組合から一八七袋の小麦粉を仕入れたことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。この量は、一ケ月の仕入量としては、原告の主張する八月以前の組合からの仕入量のうち六月の一九〇袋に次ぐ多量である。この事実は、八月以前の買溜め分を九月以降の消費にまわしたという原告の右主張に明らかに反しており、原告の主張は単なる弁解としか考えられず、八月から九月への原料小麦粉のくり越し使用はなかつたものと認めざるをえない。そうすると、別紙二記載の各月の電力使用量及び原告本人尋問の結果(第一回)のうち小麦粉使用量は夏場は若干少ないが各月毎に大差はない旨の部分によれば、原告は、九月以降その主張する仕入量のほかに小麦粉を仕入れていたものと認めるべきである。従つて被告がこれと同様の認定のもとに九月以降の原告の小麦粉仕入量を推計したのは正当である。そして、その推計は、確実な資料である電力消費消量を基礎としたものであつて、被告は、まず原告の主張する八月以前の小麦粉仕入量をそのまま採用して、一月から八月までの平均の電力一キロワット当り消費小麦粉量を一、二九袋と算出し、次いでこの平均値によつて九月以降一二月までの消費量、従つて仕入量を、その間の電力使用量、(四二六キロワット)に応じて割合的に算定したものである。そして、八月から九月への原料小麦粉のくり越しはなかつたものと認めるべきこと前記のとおりであるから、右の推計方法は合理的であると認めることができる。

原告は、消費電力のロスを考えない推計方法は不合理であると主張するが、右の一キロワット当り一・二九袋という数字は割合計算上の数字であるから、当然ロスも平等に割合的に含まれているわけであつて、何らの不合理はなく、現実の一キロワットの電力の使用効率を問う必要はない。

そうすると、被告がその主張の三、(一)、1ロでなした計算に従い、原告が九月以降に仕入れた小麦粉は、原告主張の二〇五袋のほかになお三四三袋(合計五四八袋)あると認めることができる(原告主張以外の仕入袋数は、0.81袋×42.6kW=345.06袋 となつて、被告の主張する三四三袋は誤算であるが、より少ない数量を主張しているのであるから、これに従う。)。すると、原告が昭和二七年中に仕入れた小麦粉の量は、被告主張のとおり一、六二五袋(原告主張の一、二八二袋に右三四三袋を加算したもの)であると認めることができる。

(三)  小麦粉一袋から製造されるうどんの数量。

うどん一玉当りの標準小麦粉使用量が一三〇グラムであることは当事者間に争いがない。

被告は、規格通りに製造された生うどん一玉の量目は平均四八匁であつて、この場合小麦粉一袋から一六九食(一食は二玉)製造されるが、原告の製造したうどんは一玉平均四四・三七五匁であつたから、原告は小麦粉一袋から少なくとも一七九食製造していたと認めるべきであると主張する。そして、証人平野新一郎の証言により真正に成立したものであることが認められる乙第三、四号証によると、被告が辻橋佐吉方及び中島キサ子方で原告の納入したうどん玉一三個を計量した結果、その一玉の平均量目が四四・三七五匁となつたことが認められる。しかしながら、右は、ある一日小売店頭において僅か一三個を計量しただけであり、しかも右乙第三号証によれば、五食計量したうち二食は標準の九六匁をこえていることが認められるのであつて、これだけの資料をもつて原告が一年間に製造したうどん玉の量目を推し測ることは合理的でない。そして、被告の主張を裏づける証拠は乙第三、四号証以外に見当らないから、この点に関する被告の主張は採用できない。

そうすると、この点については、原告の主張どおり原告が小麦粉一袋から製造したうどんは一七〇食であると認めるべきである。

(四)  卸小売の別及びその単価。

卸売りの場合の単価が一食につき一月から八月までは八円、九月から一二月までは九円であつたことは、当事者間に争いがない。

被告は、原告の業態が年間を通じて卸八〇%、小売二〇%であつたと主張し、原告は小売りもしていたことは認めながら被告主張の割合を争う。そこで全証拠を検討すると、成立に争いのない乙第五号証に被告の主張にそうような記載があるが、これは質問者の問として記載されているのみであつて、これをもつて証拠とすることはできず、他に被告の右主張を認めることのできる証拠は見当らない。従つて、結局卸と小売の割合は不明に帰するから、計算上原告主張のように全部を卸の単価で計算するほかない。

(五)  腐敗返品について。

この点について、原告はその主張欄四、(一)、4のとおり、主張するが、証人平野新一郎の証言によれば、被告の調査当時原告はこの点の主張をしていなかつたことが認められ、またうどんの製造販売のような業態では、一日の消化量がわかつていてそれに見合う数量しか生産せず、原告の主張するような多量の経常的返品は生じないものとするのが一般的である。更に成立に争いのない乙第一号証の一によつて認められる被告の調査時の原告の主張においても、また本訴の当初(訴の提起は昭和二九年一〇月六日)においても、原告は売上高を一七八万九四四〇円と主張していたのであるから、原告主張の返品が事実に基づくものであれば右数字は返品分を差引いたものであるはずなのに、訴提起後約二年六月を経過した後に返品を主張した昭和三二年四月一〇日付「腐敗返品明細上申書」と題する書面では、右数字から更に返品分を差引くべき旨の記載があり、このような弁論の全趣旨及び当時の食糧事情がなお緩和されていなかつたことに照らして原告のこの点に関する主張は、思いつきの弁解と解するほかない。

従つて、腐敗による返品はなかつたものと認めるのが相当である。この認定を左右するに足りる証拠はない。

(六)  以上を総合すると、原告の昭和二七年中の生うどん等の売上高は次のとおりと認めることができる。

すなわち、使用小麦粉一、六二五袋(うち八月までは一、〇七七袋)一袋から製造されるうどん等は一七〇食、販売単価一食につき八月まで八円、九月以降九円であるから、年間売額は、二三〇万三、一六〇円である(1,077×170×8+548×170×9=2,303,160)

四、小麦粉の仕入費用

被告は、被告の調査時に原告が申立てた仕入単価を用いての計算を主張しているが、その後本訴においては双方とも具体的に仕入費用を主張しているのであるから、これによつて計算すべきである。そうすると一月から六月までの仕入費用については、別紙二に記載のとおり当事者間に争いがない。次に、七月及び八月の仕入費用については双方の主張に喰い違いがあるが、これは両月の仕入量を原告は二三七袋であると主張するのに対し、被告は二四七袋であると主張するための違いである。しかし、被告は、九月以降の仕入量を推計する資料として八月以前の仕入量については原告の主張をそのまま採用し、これによつて年間仕入量の合計を主張しているのであるから、仕入費用についても原告の主張を採用すべきである。そうすると、一月から八月までの仕入費用の合計は算数上一〇八万七、一七〇円となる。

次に九月以降の仕入費用については、原告が組合から天野名義で仕入れた分の費用が、九月は、一八七袋一八万六、三〇〇円であることが成立に争いのない乙第六号証によつて認められ、一〇月から一二月までの合計が一二三袋一三万二、二〇〇円であることは当事者間に争いがないから、この合計三一〇袋三一万八、五〇〇円から一袋平均単価を計算すると、一、〇二七円となる。従つて、これをもつて九月以降の仕入費用を推計するのが合理的である。そうすると、九月から一二月までの仕入量を五四八袋と推計すべきことはさきに述べたとおりであるから、その仕入費用は算数上五六万二七九六円と認めるのが相当である。

よつて、仕入費用の総計は一六四万九、九六六円となる。

五、家賃、建物減価償却費及び公租公課

(一)、原告が、被告主張の建物を営業に使用していたことは、当事者間に争いがない。

被告は、右建物は原告の所有であるから、家賃という経費はなく、かわりに減価償却費を経費として計上すべきであると主張し、その根拠として、右建物の所有名義人である「小中政雄」とは原告の本名であると主張する。

原告本人尋問の結果によると「天野幸朗」という名は原告の通称であつて本名ではないことが認められる。しかしながら、原告の本名が「小中政雄」であるかどうかについては、成立に争いのない乙第一〇号証の一、二、第一一号証の一ないし五、第一二、一三号証及び原告本人尋問の結果を総合してもなお被告の主張を認めるに十分でなく、他にこれを認めるに足る証拠はない。従つて建物減価償却費を原告の営業経費に計上すべきであるとの被告の主張は採用できない。

(二)  従つて、公租公課についても、右建物の固定資産税を原告の営業経費と認めることはできない。そうすると右を除いた部分の原告の経費に計上すべき公租公課は、原告の主張するとおり一万五、八一〇円であることは、当事者間に争いがない。

(三)  右建物が原告の所有と認められない場合に、家賃として年間七万二、〇〇〇円を支出したとの原告の主張については、被告も争わない。そこで、右建物の坪数が一一坪三合であつたことは当事者間に争いがないので、そのうちどれだけが営業用に使用されていたと認めるべきかについて判断する。

成立に争いのない乙第九号証の一、二、証人平野新一郎の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によると、原告は当時家族と共に右建物に居住していたことが認められ、これに反する証拠はない。そうすると、右建物のうち少なくとも三畳一間一・五坪及び便所〇・五坪は、たとえ営業用にも使用されることがあつたとしても、主として原告及びその家族の日常生活の場に供されていたものと認めるのが相当である。従つて、前記家賃七万二、〇〇〇円のうち右二坪の建物全体に対する割合に相当する部分を家事関連費として、原告の営業経費に認めるべきでないとの被告の主張は正当である。従つて、右部分を除いた営業経費部分を計算すると五万九、二五六円となるから、それを超える六万三、〇〇〇円を経費として認めた被告の計算は何ら誤りではない。

六、副材料費、燃料費、消耗品費

小麦粉一袋当りに要する副材料費、燃料費、消耗品費が、それぞれ二一円六一銭、五六円八六銭、一五円七六銭であることは当事者間に争いがない。そうすると、原告の昭和二七年中に使用した小麦粉の量を一、六二五袋と認めるべきことはさきに述べたとおりであるから、年間の右各費用額は算数上別紙一の被告の第二次主張欄記載のとおりであることが認められる。

七、以上三、ないし六、に述べた収入及び支出以外の別紙一記載の収入及び支出に関しては、その各金額について、当事者間に争いがない。

よつて、以上を総合して、原告の昭和二七年中の所得金額を計算すると、

収入

生うどん等の売上高 二三〇万三、一六〇円

パン生菓子等の売上高 二二万七、五六九円

収入合計 二五三万〇七二九円

支出

小麦粉の仕入費用 一六四万九、九六六円

副材料費 三万五、一一六円

燃料費 九万二、三九七円

消耗品費 二万五、六一〇円

公租公課 一万五、八一〇円

家賃 六万三、〇〇〇円

その他当事者間に争いのない経費の合計 二九万二、六一四円

支出合計 二一七万四、五一三円

右のようになるから、所得金額は三五万六二一六円となる。

八、そうすると、被告が昭和二八年八月原告に対してなした、原告の昭和二七年分所得金額を四五万二、三〇〇円とする再調査決定は、右三五万六二一六円をこえる限度で違法であるから、右決定の中この部分を取消すこととし、原告の本訴請求中その余の部分は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山内敏彦 裁判官 高橋欣一 裁判官 小田健司)

別紙

収支計算表

〈省略〉

別紙二、

小麦粉の仕入袋数、仕入費用、使用電力量に関する一覧表

〈省略〉

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